シニアの本棚⑧ 佐々木典士・著「ぼくたちは習慣で、できている」定年は新しい習慣を始めるとき。

定年は、いままでの習慣が不要になる時。

➳定年直後ポッカリと心の穴があいたような気になるのは、いままで無意識に行ってきた習慣が、ほぼすべて不要になるからでしょう。

朝の起床から会社に到着するまでの一挙手一投足は、40年近い年月でルーティン化した習慣で形作られています。朝食の食べ方もスーツを着る手順も新聞を持って出ることも、バス停までの歩き方もホームで電車を待つ並び方も満員電車で新聞を読むのも、ターミナルのスタンドでコーヒーを飲むのも・・。

出社すれば、自分のデスクの整え方も仕事を始め方も、挨拶・朝礼、報告連絡、会議や打ち合わせの段取りなども、社内ルールで習慣化され円滑に動いてきました。時には予期せぬトラブルやイレギュラーな対応が起こったとしても、それを含めても仕事の大半は大きな意味でルーティン化されていました。

帰りの手順もすべて習慣化されてきました。平日の過ごし方、週末の過ごし方、家族や親戚・友人との過ごし方も多くの習慣に支えられて大過なく過ごしてこれたでしょう。

良き習慣も悪しき習慣も、それらすべての身についた習慣が、「今日からもう必要ありません!」となるのです。多くの人が、定年直後、濡れ落ち葉と化すのも無為に過ごしてしまうのも、習慣をなくしてしまった結果ではないでしょうか。

第二の人生のスタートは、新しい習慣を武器にしよう!

➳人間は環境の動物です。第二の人生という、新しい環境に順応していくためには、いままでの習慣を手放して新しい習慣を作り出す必要があります。

そのためには、「習慣」そのものを学び直すのが理にかなっているのではないでしょうか。

というのは、ボクもそうですが、多くの人は習慣に負い目を持っています。習慣と聞いて、ほとんどの人は「習慣にできなかったこと」を思い出します。「そして、ボクは意志が弱いから」と、習慣の前に気後れをしてきました。

そこにこの本は、 自分は「意志が弱い」と思い込んでいる、すべての人へ と、習慣とはそもそも何か、習慣を身につけるため手法を丁寧に提供してくれます。

自由時間は多すぎないほうが幸せ、と著者も時間と格闘している。

著者は38歳と若く、定年世代ではないのですが、自由にある時間に苦労をしていました。 16ページから引用

「ぼくは勤めていた出版社を2016年で辞め、フリーランスで書く仕事を始めた。ボーナスや退職金をもらったばかりなので、お金のことはしばらくは心配しなくてもいい。毎日どれだけ寝ていても誰からも怒られないし、毎日どこかへ遊びに行くのも自由だ。編集者としてせわしなく12年間働いてきたので、しばらくゆっくりしてもバチは当たるまい、そう思っていた。

そうしてダイビング、サーフィン、マラソンなど、時間があったらやりたいと思っていたバケットリストにたくさん挑戦した。車の運転、野菜を育てること、DIYなど、新しくできるようになったこともたくさんある。東京から京都に引っ越したので、関西の見知らぬ場所に出かけていくのを楽しんだ。   (中略)

編集者時代には、昼食を食べた後のわずかな休憩時間に本を読むのが大きな楽しみだった。仕事を辞めればもっと楽しみの時間が増えるだろうと思ったが、実際は違った。 1日中いつでも読めるとなると、手が伸びない。『時間があったらできる』と人はよく空想するものだが、『時間がありすぎるとできない」こともある。

毎日やるべきことを見つけるのも大変だった。雑事を見つけてはこなし、おもしろそうな場所を見つけては出かけていたのだが、やがてそれにも飽きてくる。

そうしてぼんやりしている時間が増えた。天井に向かって、筋膜リリースに使うボールを投げて、キャッチする。最近うまくなったのはこれだけだ。ある時、近所の温泉に昼間から入っていたのだが、なぜだか全然嬉しくないことに気がついた。それもそのはず、ぼくには癒やされるべきストレスも疲れもなかったのだから。

ある研究によると、人の自由時間は1日7時間以上あると、逆に幸福度が下がってしまうそうである。身に沁みて、本当にそうだと思う。時間のゆとりと、したいことができる自由は幸せの条件だと思う。しかし、それに浸りきることもまた、幸せではないのだ。

不自由から逃れた先には、自由の苦しみが待っていた。」

➳引用が長くなりましたが、定年世代と通ずるものがあるでしょう。 そしてこの著者が自由の苦しみを改善するために「習慣」に手を着けたのです。

第1章 習慣に意志は関係ない

➳習慣イコール意志のチカラと半ば脅迫観念のように我々に迫る、「意志とは何か」を解き明かしてくれています。

意志が顔を出すのは、誘惑を制御できるかどうかが問われたときに、誘惑に負けてしまうのが意志の力が弱いからとなるからです。

「人には目の前の報酬ほど大きく感じ、将来にある報酬や罰則は少なく見積もってしまうという「双極割引」という性質がある。だから、好ましい習慣を身につけるのが難しい。」

本書のイラストを借用

また、●「人の脳には理性的なクールシステムと、感情的なホットシステムがあり、相互作用している。」ので、常に葛藤が起こり、そこに「意志」が登場するわけです。飲み会の締めのラーメンの誘惑を抑える方が、翌日の胃腸の状態や肥満対策に良いのですが、目の前のラーメンを食べたい欲求に負けるわけです。

ですが、そもそもどちらが良いかなどと意識する(考える)から、行動する前に立ち止まってしまうのです。

●「意識が呼び出されている時点で、どちらの報酬がより大きいのか、悩むべき問題」になってしまっているということ。」

「習慣とは『ほとんど考えずに行う行動』のこと。習慣にするには、意識自体の出番を減らす必要がある。」

まずは習慣に意志は関係ないというのが、第1章です。

第2章 習慣とは、「トリガー」で作動する「ルーチン」であり「報酬」を求めて行われる。

66ページから引用。    

●「習慣とはほとんど考えずにする行動」のことだ。何かが習慣になっている状態というのは、意識をほぼ使わず、限りなく無意識の行動に近づけていくということだとぼくは考えている。その状態ではそれをするかどうかという「悩み」や「決断」、どんな方法を取ろうかという「選択」がそこにはない。悩み、選択、決断、それらはすべて意識でする問題だからだ。

デューク大学の研究によると、ぼくたちの行動のうち45%はその場の決定ではなく、習慣だそうだ。」

●「運転や料理などの複雑な行動も、意識は使わずとも実行できるようになる。」

●「意識は、何か問題があった時だけ呼び出され、普段は自動操縦のように行動や生活が行われている。」

●「朝決めた時間に起きるなど、悩むべき問題があった時、意識で国会のような議論が繰り広げられる。その時々によって却下されたり認められたりするので、意識が呼び出されている時点でどちらに転ぶかわからない。

➳大いに賛同します。ボク(このブログの筆者)は早朝のウオーキングを習慣化できています。冬の寒い朝の6時に起き出して外に出るのは大変です。うまくいく秘訣は、たったひとつ「考えないこと」です。目が覚めたら即着替えて部屋を出る。目が覚めてベッドの中で考えたら、休む言い訳が出てきます。だから、何も考えないように、脳を働かせずに体を動かします。夏場でしたら、トレーニングウエアを着て寝て、そのまま目覚めて跳び出します。

ボクのこの「早朝ウオーキング」の(1)トリガーは、目覚めてすぐ腕の活動計の文字版の時刻と心拍数の数字です。有酸素運動は心拍数を高めることで効率よく脂肪を燃焼しますから、心拍計の数字がトリガーになっています。(2)ルーチンは、枕元に用意しておいたトレーニングウエアに着替えて、トイレと水を飲んで外に出ることです。(3)報酬は、お風呂です。秋冬は身体を芯から温めてくれて、春夏は汗を習い流してくれるお風呂、運動後なので堂々と朝風呂が入れるのです。このため、お風呂をリフォームしました。

第3章 習慣を身につけるための50のステップ

この本の面白さは、第3章50のステップでしょう。なるほどこれは役に立つ。あ、こんな方法があったのか、という気づきや、それやってみようがたくさんあります。

習慣化するためには、途中でやめるなど、目から鱗モノもあります。

ミニマリズムはすべての習慣のハードルを下げる<step09 まずはキーストンはビット>より抜粋

「習慣を身につける際に、何から始めようか迷う人がいれば、ぼくは最初の一歩として、モノを減らすことを勧めたい。適切にモノを減らせばそもそも散らかることが減る。複雑な片づけ術を身につけなくとも、使ったらしまうことが習慣づいてくる。」※著者は、ミニマリストです。

チャンクダウンする。<step17 >より抜粋

先に進むための秘訣は、まず始めること。まず始めるための秘訣は、複雑で圧倒す

る仕事を、扱いやすい小さな仕事に分解して、最初のひとつを始めることだ。

マーク・トウェイン

●「チャンクダウンに関しては、このマーク・トウェインの言葉がすべてを説明している。チャンクというのは、塊のこと。その大きな塊を小さな要素にわけることだ。何かを「めんどくさい」と思う時、そこには複数の手順が絡まり合っていることが多い。

ぼくがおすすめするのは、何かを億劫だと思ったら、それに必要な手順をすべて書き出してみること。たとえば早起きのコツはいろいろとある。いきなり布団をはぎとってガバッと起きることは、起きるプロセスの最終結果。寒い冬などはそれが難しいことも多い。」

  • まず目だけ開ける(身体は寝たままでいい)
  • ふとんを半分だけ剥ぐ
  • ベッドに座る
  • ベッドから一歩抜け出す

1日目は目だけ開ける。2日目は布団を半分はぐ・・・、というように小さな塊を徐々にクリアしていけばいい、ということです。

●ついでにもう少しやろうかな<step18 目標はバカバカしいほど小さくする>より抜粋

何より難しいのは『始めること」だというのは先にも書いた通りだ。まず始めるところから脳のやる気は起こる。

掃除や片づけも同じ。始める前はやろうかどうしようか悩むものだが、始めてしまってからはいろいろな箇所に手つけてしまった経験はないだろうか? 僧侶の永井宗直さんも「ぞうきんを絞ると、あそこもかこうかな、と思うでしょう?」と言っている。

『小さな習慣』でスティーヴン・ガイズは『目標をバカバカしいほど小さくすること』を勧めている。まず始めてしまうには、基準となる目標 (10回の腕立て伏せ)があったとしても、それを忘れて、「腕立て伏せを1回する」ことを目標にするのがいい。腕立て伏せ1回を目標にすれば、始めるのに難しさを感じないし、ついでにそんな体勢になったのだからあと10回ぐらいやろうかなと思えるものだ。」

●作家やアーティストはほぼ規則正しく働く<step24 大人の時間割をつくる>より抜粋

「『天才たちの日課』という本で紹介される天才たちはほとんど規則正しい生活を送っている人が多い。ほとんどの人は朝型で、午前中にクリエイティブな仕事をすることに充てている。

例えば画家のフランシス・ベーコンをご存知の方は、隙間もないほど絵の具?画材で埋め尽くされたアトリエを見たことがあるかもしれない。アトリエからも、激しい作風からもさぞかし奔放な生活なのだろうと想像するが、仕事時間はきっちり決まっていて、夜明けに起き正午まで。その後は確かに飲み歩いて奔放な生活と言えるが、仕事の時間は毎日決めて確保していたのだ。

ぼくのフリーランスになってからの「自由がありすぎる苦しみ」は冒頭で記した。やはり時間で自分を律することはある程度必要だと思える。天才は、思い付きで仕事をしたのではなくきっちりと自分の仕事をする時間を決め、継続を続けた人たちなのだ。」

●時間割で自分の限界を知る<step24 大人の時間割をつくる>より抜粋

「時間割をを決めておくことのメリットは他にもたくさんある。それは『自分ができる1日の作業量を正確に把握できる』ということだ。

ある研究によれば、人は何かやるとき、できると思っていた日時の1.5倍を目標達成のために費やしてしまうという。つまりいつも自分の能力を過大評価している。10日でやろうと思っていた仕事は、実際にはいつも2週間かかっていたりするということだ。これもひとつのスーパーマン幻想。耳が痛い。」

できないことを明確に<step24 大人の時間割をつくる>より抜粋

「時間間を作って、その通りに行動すれば、自分がどれくらいのことをすれば、どれくらい疲れるのか、そしてそこから回復するのにどれくらいの休息が必要なのかもわかってくる。どの程度の習慣をこなしたら自分が満足感を感じるのかもわかる。

その総量が限界に近い時、さらに何かを足したければ、引くしかないこともわかる。ぼくは、次々に趣味を増やしたいタイブだが、今はあまり増やしていない。ある時軽トラの荷台にDIYでもバイルハウスを作ろうとしていたことがあるのだが、その時間が自分の時間割に収まらないことがわかった。以間なら、自分のふがいなさを改めていたところだ。

しかし、すでに時間割で動いていたので「今は物理的にそれが入らない」ということがはっきり分かり他のことを優先できた。

時間割で動くことは、あやふやだった「自分のエネルギー」「1日でできること」の総量を『見える化』すること。無理のない買い物をするためには、まず口座に入っている金額を確かめなければならないように、自分の限界を知ることには大きな意味があると思う。」

途中でやめる <step31>より抜粋

「習慣は何より続けることを重視するので、もっとやりたいと思うところで止める。途中でやめる。8割ぐらいでやめる。そうすれば、楽しいままの印象で終わる。ぼくもギターや英語の勉強も苦しくなるまではやらない。だから次の日もやりたくなる。なんだか楽しくなくなってきたかも、というところまではやらない。」

ヘミングウェイも途中でやめた

「へミングウェイもいつも途中でやめていた。雑誌のインタビューで仕事術をこんな風に答えている。『まずは前に書いた部分を読む。いつも次がどうなるかわかっているところで書くのをやめるから、そこから続きが書ける。そして、まだ元気が残っていて、次がどうなるか分かっているところまで書いてやめる』

ヘミングウェイは、「始めることの難しさ」を熟知していた。だから、次の話がどうなるかわかっているところから始めれば、くよくよ悩まずにスタートを切れる。スタートさえ切れれば後は脳が集中を始めてくれる。これはビジネスにも応用可能だ。」

村上春樹は徹底して途中でやめる

「『8枚でもうこれ以上書けないなと思っても何とか10枚書く。もっと書きたいと思っても書かない。もっと書きたいという気持ちを明日のためにとっておく』。6枚書いて、ドマチックな展開を見せる章を書き終わったとしても、続けて次の章の4枚を書くのだという。要するに物量で決めていて、形式上のキリがいいところではやめないということだ」

「習慣」に正面から立ち向かい、共に考えさせてくれます。

<おわりに>に以下の記述があるように、著者も習慣と苦闘しながら、多くの文献や資料にあたり、326ページの濃い情報を届けてくれています。目線が我々読者と同じレベルであるので、とても共感を持って刺さってくる1冊です。ぜひ、ご一読を。

「この本のは難航を極めました。もう難航というか、毎日座礁(笑)。「毎日原橋を書くということが習慣化されていなかったからです。それはぼくが最後に身につけた習慣でした。 (中略)

作家のジョン・アップダイクの『書かないことはあまりにも楽なのでそれに慣れてしまうと、もう二度と書けなくなってしまうから』という言葉。ぼくもまさに、書かないことに慣れ「書かないこと」を習慣にしてしまっていたのです。

だから習慣について書いたこの本は、この本を書く中で学んだ習慣についての知識がなければ書くことができませんでした。なんだか変な話です。自分が書く内容に教えられながら、書けるようになっていったとは。」

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