シニアの本棚④ 上野千鶴子著「在宅ひとり死のススメ」 慣れ親しんだ自宅で幸せな最期を迎える方法

最近ではボクが最も影響を受けた1冊です。「シニアの時間」の考え方そのものが大きく変化しそうだと、読みすすめながら感じていました。シニアの、その先の「死」についての捉え方が、ボク自身曖昧であったのが、今回かなり見える化されました。

(1)長寿を呪うような言説に、エビデンスで対抗している

第2章 死へのタブーがなくなった の、44ページから引用します。 

「日本の超高齢社会は、高齢者が慢性病を抱えながらもなかなか死ななくなった長寿化が原因です。2019年の日本人の平均が命は男性81.41歳、女性87.45歳、平均寿命とはゼロ歳で死んだ子どもも入れての平均ですから、今や「人生百年」と言われるようになり、90歳を越えて生きる確率は男性が4人に1人、女性が2人に1人以上といわれています。そうかんたんには死ねない社会が到来したのです。

長寿社会の条件は、栄養水準、衛生水準、医療水準、介護水準がのきなみ上昇することです。努力して得た結果なのに、巷には『長生き地獄』(松原惇子、SB新書、2017年)とか『長生きしても報われない社会』(山岡淳一郎、ちくま新書、2016年) とか、長寿を呪うような言説があふれています。」

➳そうなんですよね、長寿は誇るべきことなのに、年金政策や医療費負担で財政逼迫的な観点ばかりを喧伝する政治・行政のプロパガンダに載せられて、長生きリスクを突きつける世の趨勢に真っ向から疑問を呈して、エビデンスを引用しながら分析していってくれるのが本書です。

(2)ピンピンコロリは、現実的ではない理由

➳ボク自身もそうですが、家族や他人の世話にならずに、迷惑を掛けずにおさらばしたいという願望は、当然みなさんお持ちでしょう。しかし、「コロリの前のフレイル期間」が統計データに明示されているということは、ピンピンのまま、コロリなどできないことを教えてくれます。

フレイル(虚弱)期間が8〜12年存在する  (45ページから引用)

「最近はやりの「健康寿命」という概念をご存知ですか?

平均寿命からフレイル(虚弱)期間(日常生活に制限のある不健康な状態の期間)を引いた残り、「健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間」と定義されています。

フレイル期間とは、要介護認定を受けたら要介護か要支援を認定される程度、と考えてもらってもかまいません。

(中略)   平均寿命から健康寿命をさし引いた残りのフレイル期間の平均は、男性が8・5年、女性が12・5年(2016年)と、女性の方が他人さまのお世話を受けて生きる期間が、男性より4年も長いことになります。」

さらに続きます。

「日本人の死因からわかることは、大量死時代の大半の死が、加齢に伴う疾患からくる死だということです。すなわち、予期できる死、緩慢な死です。幸い介護保険のおかげで、多くの高齢者がケアマネージャーにつながります。 介護保険の要介護認定率は高齢者全体では平均2割程度ですが、加齢と共に上昇し、80代後半では5割、90代では7割から8割に達します(国立社会保障・人口問題研究所、2012年)。つまり多くの高齢者は死ぬまでの間に要介護認定を受けるフレイル期間を経験しますので、たとえ望んでも、ピンピンコロリなんてわけにはいかないのです。」

(3)幸せな「在宅死」が可能であること、を知った。

➳最期は自宅で死ねる。施設・病院でなくて良い、という発見をこの本でしました。

ボクの祖母と母は施設で.、父は病院で亡くなったので、漠然と自分も施設か病院のどちらかだろうと考えていました。 最期は仕方なく自分を捨てるというような感覚で諦めの中、死を受け入れざるを得ないと捉えていました。  父が亡くなったとほぼ同時期に介護保険制度が導入されて、当時ボクは50代前半でした。ただ一方的に保険料を天引きされていくというお粗末な認識で、介護職の方がが薄給で求人難であるといった断片しか捉えていませんでした。

介護保険に関して、あまりに無知だったことを、 猛省します。この本を読了して、介護保険制度のお陰で、自宅で幸せに死ぬという選択が実現できたことを知りました。

つまり、フレイルの期間を介護保険制度による、社会的介護(要介護か要支援を利用して、(家族などに)気兼ねなく緩やかに死んでいけるのです。

(4)「終末期」のお金はそれほどたくさんいらない。

➳【死ぬ時が分かれば貯金使うのに!】ー 秀逸な川柳がありました。我々はどうも見えない金銭リスクに脅かされて、思考停止しているところがありますね。

シニアの時期を大別すれば、

  1. 健康寿命期・・・
  2. フレイル期・・・医療保険+介護保険の自己負担の費用。食費と日常生活費、水道光熱費。
  3. 終末期  ・・・医療保険+介護保険の自己負担の費用。食費と日常生活費、水道光熱費。

第3章 施設はもういらない! に、「看取りのコストは【病院】>【施設】>【在宅】という見出しの項目に、

小笠原文雄著・なんとめでたいご臨終(小学館、2017年)からのデータが引用されています。

「右の表は在宅の認知症、80代のおひとりさま、上村さん(仮名)の死の直前3カ月間にかかった経費です。上村さんのお宅へは、わたしも小笠原さんに同行しました。そしてあとで、ドクターから「ご本人のご希望通り、ご自宅からお見送りしましたよ」というご連絡をいただきました。

それによれば医療保険の本人1割負担、介護保険の本人1割負担に加えて、自己負担サービスが月額3万~4万円。これは死の3カ月前に、夜が不安だとおっしゃるので、自費で夜間ヘルパーさんを入れた経費だそうです。総額は月に10万~30万、本人負担は7万~8万程度にすぎません。

在宅ひとり死は、お金はいくらかはかかるが、いくらもかからない、と言ってきたことが、データで裏づけられた思いです。公費負担はどうなるんだ、とお考えでしょうか。政府が在宅死へと誘導する理由は、あきらかにコストが安くつくからです。看取りのコストは、病院>施設>在宅の順で高くなります。

これより高額のデータも紹介されています。少し長い引用ですが、

「終末期のQOL(Quality of Life 生活の質)を高めたければ、自費サービスを入れればよい、というのが、政府の方針のようです。医療保険では禁止されている自費サービスと公費サービスの混合利用を、介護保険では厚労省は積極的に勧めています。『地域包括ケアシステム構築に向けた公的介護保険外サービスの参考事例集 保険外サービス活用ガイドブック』(厚生労働省・農林水産省・経済産業省、2016年)などという報告書には、そういう自費サービスを提供してくれる事業者が、「モデル事業」としていくツモ紹介してあります。

もちろん自費サービスは安くありません。介護サービスの公定価格をそのまま10割負担にして提供する事業所もありますし、保険外自費サービスに独自の料金体系を適用しているところもあります。そのモデル事業所のひとつ、ヘルパー指名制で有名なグレースケア機構の代表、柳本文貴さんに、これまでの在宅看取りの事例のうちで、自費負担がもっとも高額だった例を教えてもらいました。最高額で月額160万円だったそうです

びっくりなさるでしょうか? わたしは逆にほっとしました。なぜなら一日は4時間、1カ月は30日、逆立ちしてもこれ以上は使いようがないからです。柳本さんに重ねて訊ねました。「それはどのくらいの期間、続きましたか?」と。 約2カ月半、およそ400万円です。終末期は永遠には続きません。かならず終わりが来ます。

この程度の額なら、日本の小金持ちのお年寄りは蓄えを持っているのではないでしょうか。小笠原さんによれば、 在宅ひとり死の費用は30万から300万まで。 この程度の費用を用意しておけば家で死ねる、そうです。」

(5)介護保険制度を自分のものにしよう。

➳最近ボクの家の近くに、2階建ての事務所のような賃貸アパートにような建物が、2ヶ月ほどの突貫工事で建てられました。なんの建物だろうかと思っていたら、「愛の家・○○ケアハウス」という看板が掛けられました。需要があるから急ぎ建てられたようですが、切なさが伝わってきて、ボクはこうした施設に入らなくて良いように、しっかり準備をしていかなくてはと決意しました。自分の意識・健康とともに、下記にあるように「介護保険制度の中身」を学び、行動していくことです。

第8章 介護保険が危ない! の、202ページから引用します。 

「今さら介護保険のない時代には戻れません。介護保険は「失われた30年代」に日本国民が成し遂げた変革のうちで、個々の家庭に直接影響する、もっとも大きい変革でした。日本は介護の社会化への巨大な一歩を踏み出し(まだ「一歩」にすぎませんでしたが)、その恩恵を多くの高齢者とその家族が受け取りました。この変革をなしとげたのは団塊世代の有権者たちでしたが、もとは自分たちの介護負担を減らしたいという動機からだったとはいえ、今度は自ら利用者としてその恩恵を受けることができるようになったのです。団塊世代は後続の世代から迷惑な世代と責められましたが、この介護保険を作ったことは団塊世代の政治的功績として認められるに値すると思います。

いまどき介護保険廃止、などと唱えたら、その政治家の政治生命は直ちに終わるでしょう。そのくらい介護保険の恩恵は、国民のあいだに浸透しています。ですが、制度はあっても使い勝手を悪くすることで使えなくしていく・・・それを制度の空洞化、と言います。それが得意ワザなのが、政治家と官僚です。」

(6)「満足いく老後」の3条件

➳ご紹介が、この本の順序とは逆になりましたが、第1章に「老後はおひとりさまが一番幸せ」とのデータが示されています。

大阪府下で開業している耳鼻咽喉科のお医者さんである辻川覚志さんが門真市在住の60歳以上の高齢者500名近くに調査をして執筆された「老後はひとり暮らしが幸せ(水曜社、2013年)」のデータが引用されています。この本は3部作で、生活満足度や不安や寂しさなどを調べているのですが、

「辻川さんの調査からは、さらに面白いことがわかりました。加齢と共に、体力も落ち、カラダにいろいろな不具合も生じます。ですが、経年変化で見ていくと、「健康状態が悪くなってきても、ひとり暮らしは、なかなか満足度が悪くなりにくいことがわかりました。」

というように、この3部作の結論が語られています。これは、ひとり暮らしかどうかは別にして、老人ホームなどの施設やサービスの行き届いた病院などの選択肢を前にして、当たり前の選択肢があることを、魅力的に雄弁に教えてくれます。

(33ページから引用)

「満足のいく」老後の姿を追いかけたら、結論は、なんと独居に行き着いたのです。/老後の生活満足度を決定づけるものは、慣れ親しんだ土地における真に信頼のおける友(親戚)と勝手気ままな暮らしでありました」

この結論は、①慣れ親しんだ家から離れない、②金持ちより人持ち、③他人に遠慮しないですむ自律した暮らし、を唱えてきたわたしの主張とみごとに重なります。辻川さんも施設入居はお勧めしません。それどころか、「これらは、どんなに高級な高齢者向け施設にも存在し得ないものです」ときっぱり書いておられます。」

➳全209ページの最後まで、「知ることが次の行動に繋がる」良書です。 ぜひご一読を。

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