近頃の形容詞の最大級表現に神があるが、はるか55年前、高校生のときに初めてカツカレーに出会った時は、これは神発明!に思えた。カレーライスだけでもご馳走であるのに、トンカツまで一緒に食べられることに驚愕したのを鮮明に覚えている。京都の三条河原町のスター食堂であった。大学生になりアルバイトで稼げるようになると、給料日には必ずカツカレーを食べていた。
以来何千食とカツカレーを食してきたが、ただ一点残念なことがある。それはライスの上にのったカツにカレールーが掛けられていることだ。ぼくが思うに、カツカレーは3度美味しいのである。
- カツとご飯を味わう、カツライス
- カレールーとライスを味わう、カレーライス
- カレールーが掛かったカツを味わう、カレーカツ
であるのに、世のレストランの95%は 1のカツライスの機会を奪っているのだ。
ぼくの味わい方はこうだ。まず、カツの内の真ん中の1片に岩塩を掛けて豚肉の旨味をしっかり愉しむ。次いで、ウスターソースを1片のカツに掛けて、ソースカツを味わい、ライスの上にシミたソースライスも味わう。
そんな至福を提供してくれる名店に出会った。フレンチや懐石の技法を取り入れた独自の洋食で知られる「旬香亭」斉藤元志郎シェフが「65才過ぎたから自分が食べたいものを作りたい」と、カツとカレーの店 ジーエス をオープンさせた。食べたい人目線で調理されているから、(扉写真のように)カツとカレーがしっかりとセパレートされて供されている。カウンターにはちゃんとフランス岩塩にウスターソースにとんかつソースが用意されているのだ。日本人がまだ貧しかった時代に金字塔のごとく輝いていたカツカレーが食いしん坊目線で帰ってきた。カツの旨さは、赤坂見附フリッツで毎週味わっていた、薄い色の衣で肉の真ん中をレアに残す揚げ技が生きている。スリランカレーをベースにしたルーもカツの旨さを引き立てている。